犬烏

そいつの存在を知ったきっかけは、パートさんが休憩から戻るなり突然「わんわんって鳴くカラスがいるのよ!あそこのコンビニ辺りにいるのよ!」と、醤油煎餅を咀嚼しながら院内の事務に熱弁した時の事である。

とうとう、幻聴まで、、。その時の自分はそう思っていた。

元々、自分のクリニックにまともなお方はいない。

医師、看護師、相談員、事務全てだ。

変人の集まりである。

その中に属するパートさんが「犬みたいに鳴くカラスがいる」と発言した所で、信憑性があったもんじゃない。

その話はもうかれこれ半年程前になる。特に興味はなかったが、月日経つにつれ、1人、また1人と幻聴に悩む可哀想な方が増えていった。

「ゆうたくんもその内出会うよ!」と言われたが、「今日お昼何食べました?きっとそれのせいです。」と適当にあしらった覚えがある。

そして今日休憩時間、近くのミニストップを通り過ぎようとした時、「わん、わんわん、わん」と声が聞こえたのである。本物の犬の鳴き声では無い。子供が犬の鳴き真似をしているような声。しかし、近くに子供の姿はない。さらに言うならば、その声は頭上から聞こえてくるのだ。

上を見上げるとカラスが1匹だけ、電線に居座っている。

口を開く度に「わん」

出会ってしまったのか?いや、これは幻聴だ。レセプトで毎晩遅くまで働いていたのだ、これは幻聴だ。

これからラーメンを食べようとしているのが原因だ。

そう言い聞かせた。

だが、以前カラスの生態について、「カラスをペットとして飼っている」方のYouTube動画でこんな事を言っていたのを思い出した。

「カラスは頭が良い。オウムのように声真似をする。」と。

あれは本当だったのか。パートさんが「犬の鳴き真似をするカラスがいる」というのも、幻聴ではなく本当の事だったのか。パートさんを侮辱した事を深く反省した。

しかし引っかかる。確かにスキルとしては凄い事だが犬の鳴き真似をしている事が「頭がいい」事なのだろうか。

あそこで真似をするメリットが思いつかない。

例えばだ。サッカーの玉転がしがプロ並みに超絶上手な方であったとしても、バスケの試合で足で転がそうものなら、それは優れたスキルを持っていたとしても、「頭が良い」ではなく単なる「馬鹿」だ。

犬に扮する事で外敵から身を守る?ここ近辺には、鷹も鳶もいない。外敵から身を守る手段が必要ない。

目立ちたがり屋?「あのカラス変な鳴き声ーw」それならば共感出来る。しかし、野生のカラスが人に懐くとは考えられない。

ならば何故、あのような鳴き方をするのか、、

休憩時間帯にずっと考えた結果、犬烏は反面教師として人々に伝えたかったのでは?との結果に至った。

物珍しい事をして注目を集める、大事な事だ。

恥ずかしがらずに披露をする、大事な事だ。

しかしそれは、、TPOを弁えた上で評価されるものなのだと。

自分の努力の結晶を披露したい気持ちも分かるが、求められていない場でのその行いは「独りよがり」となって終えてしまう。さらには自分自身の評価まで下げかねない。

恥ずかしいけど、頑張った結果「それは今じゃない」と言われた際には二度と挑戦出来なくなるであろう。

ほんの1時間の間に、自分は大切な事を学んだようだ。

「空気を読め」

カラスから改めてその事を学ぶとは思わなかった。

いや、「カラスから学ぶとは」という文言自体、御教授頂いた方への敬う気持ちがないなと痛感する。

根本から「ゆーたの性根改善」を見直さなくてはいけないようだ。

厨二長文失礼した。