余談26

あっ、お久しぶり、じゃないか

ドアを開けた早戸さんはそう挨拶する。

あっ、すいません、何の事前連絡もせず、押し掛けてしまい

私、そう言うと、頭を軽く下げた。

ふっ

やや、早戸さん、鼻を動かす。

途中、香水を掛け直したのが、ばれた?

入っても良いですか?

私は、それを誤魔化そうと、聞く。

どうぞと早戸さんは私を慌ててダイニングに誘った。

いきなり、ダイニング?

やや戸惑ったが、早戸さんに従うしか手立てはない。

あっ、何か飲まれます?

早戸さんは聞く。

じゃあ、ワインか、ウイスキー在りますか?

私、強いアルコールを要求した。

はい?

早戸さんは、聞き返した。

今、強いアルコールを飲まなくてはいられない、私の状況について思いが至らなかったのだろう

時間が無いんです

私は小さな声で囁く。

時間

それは?

実、塾の終わるのが19時なので、それまでには戻らなくては

私は伝える。

戻る

19時?

だが、それに反応する早戸さんが居た。

だったら、今すぐにでも

どうぞ

早戸さん、グラスにスコッチらしいお酒を注ぐと、ダイニングチェアに座る私の前に出した。

それを私はじっと見つめた。

そして、ぐっとグラスを掴むと、一気に中身を飲み干した。

き、キツイ!

思わず声が出た。

喉が焼けるようだ。

目を丸くしている。

飲み慣れている訳ではない。

それが分っただろうか。

だが、その非日常的行為こそが、今の私の不条理な行動の裏付けになるはず。

私はそう祈った。