中米ニカラグア  ロシアの支援で反政府デモへの弾圧を強めるオルテガ政権 内戦に発展する危険性も - 孤帆の遠影碧空に尽き

(7月13日の午後、ニカラグア国立自治大学にて政府への抗議運動を行った学生たちへ、治安部隊と民兵が発砲、教会堂ごと焼き払うと脅迫。オルテガ政権は、教会へ逃げ込んだ学生とジャーナリストら約200名を「犯罪者とテロリストだ」と断定。数百名の市民や学生たちが、教会内部に包囲された人々を救おうと現場へと押しかけたが警察によって排除された。【7月15日 キリスト新聞】

翌14日にカトリック教会側の働きかけで200人は解放されるも、死者1名、負傷者3名を出した。)

オルテガ政権の反政府デモへの暴力行為で死者は400人超】

中米ニカラグアで、左派オルテガ政権が進める社会保障制度改革に抗議するデモ隊が暴徒化し多数の死者が出ている???というニュースが報じられたのが今年の4月でした。

****暴動で死者10人、社会保障制度改革に抗議 中米ニカラグア****

中米ニカラグアで18日以降、社会保障制度改革に抗議するデモ隊が暴徒化し、警官1人を含む少なくとも10人が死亡した。ムリージョ副大統領が国営メディアに語った。

首都マナグアではデモ隊の投石や放火に対し、警官隊が催涙ガスやゴム弾を使用した。

政府は18日、社会保障制度の赤字拡大を食い止めるための改革を承認。労働者や雇用主の負担を増やす一方で退職者が受け取る年金を減らす内容に、激しい抗議の声が上がった。

国営メディアによると、政府側は20日、デモ隊との交渉を始めると表明した。オルテガ大統領は21日午後に演説する意向を示した。

20日深夜には政府機関のビルを防御するため、軍が出動したという。

年金生活者や学生らによるデモはマナグア市内だけでなく、国内各地で報告されている。政府が鎮圧を図るなか、複数のテレビ局が放送停止となった。

ムリージョ氏はデモ隊を「吸血鬼」に例えて非難した。

これに対して国連人権高等弁務官事務所の報道官は、デモ参加者らに対する暴力を非難し、表現と集会の自由を強調した。【4月22日 CNN】

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その後も対立は収まらず、社会保障制度改革への抗議にとどまらず、強権的・独裁的な政権に対する反政府運動という形にもなっています。

****ニカラグア 米欧の非難高まる 反政府デモへの暴力行為に****

反政府デモを暴力的に取り締まる中米ニカラグアの反米左派オルテガ政権に対し、国際社会の非難が高まっている。AP通信によると、デモが始まった4月以降、当局との衝突などで市民約270人が亡くなった。各国は対話による解決を求めるが、混乱は深まる一方だ。

 

AP通信は、人権団体の情報を基に15日も各地で少なくとも10人が死亡したと伝えた。軍や警察がデモ隊や立てこもった市民に発砲し、死者や負傷者が相次いでいる。治安悪化を避け周辺国に逃れる市民も続出する。

 

米国は今月5日、市民への暴力行為を指示したとして、軍や警察の幹部ら3人が米国内に持つ資産を凍結する制裁を科し、政権への圧力を強める。

 

欧州連合(EU)は15日、「学生や市民への暴力行為は遺憾だ。すぐに全ての暴力をやめるべきだ」と要請。ブラジル、チリ、コスタリカなどもオルテガ政権を非難し、反政府派との対話を求めた。

 

反政府派は、通算4期、大統領を務めるオルテガ氏と2017年から副大統領の妻ムリジョ氏を「独裁者」と非難。オルテガ氏らの辞任と21年予定の大統領選の前倒し実施を求めるが、オルテガ氏は拒否している。

 

政権は4月、年金支給額を減らし企業や労働者の負担を増やす社会保障制度改革を発表した。改革への非難に加え、独裁批判も高まり若者を中心に抗議デモが頻発している。【7月17日 毎日】

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反政府デモ鎮圧には、同じ左派政権のキューバベネズエラなど周辺国から招かれていると推測もされる“戦闘の専門訓練を受けた非公式の「プロ組織」”も投入され、死者は400人を超えているとのこと。

****中米ニカラグア、反政府デモ激化で死者400人超 外国の非公式組織が取り締まり? 中南米の不安定要因に****

中米ニカラグアで、独裁傾向を強めるオルテガ政権に抗議するデモが激化し、400人を超える大量の死者が発生している。

背景には、戦闘の専門訓練を受けた非公式の「プロ組織」が周辺国から集まり、市民に対する強硬な取り締まりに関与しているとの分析も浮上。事態収拾の糸口は見えず、各地で混乱が続く中南米地域全体への影響も懸念される。

 

反政府デモは4月18日、オルテガ政権が社会保険料の引き上げや年金削減を一方的に大統領令として公布したことがきっかけとなった。

各地で暴動が起こって大統領令は撤回されたが、デモはその後も続き、オルテガ氏退陣を要求するなどエスカレートしてきた。AP通信によると、死者数は約3カ月で計448人に上っている。

 

死者急増の理由の一つとして、取り締まりに当たる「パラミリタリー」(準軍事組織)と呼ばれる武装組織が挙げられている。

 

現地外交筋によると、警察が所持しないAK−47ライフルなど重武装が特徴で、キューバベネズエラからの雇い兵だとされるが、政権側はその存在を否定しており実態は不明だ。死者の多くは遠距離から頭や心臓などを銃撃されており、高度な訓練を受けている可能性もある。

 

事態を重くみた米州機構(OAS)の常設理事会は今月18日、ニカラグアでの暴力や人権侵害を非難する決議を採択。グテレス国連事務総長も非難の声明を出すなど、国際社会からの批判が高まっている。

 

デモの背景には、貧困と強権政治への不満がある。中南米ではハイチに次ぐ貧困国とされるが、貧困対策に回す財源的余裕がなく国民はいらだちを募らせてきた。

 

オルテガ政権は企業優遇政策で海外からの投資を呼び込み、過去10年間の平均経済成長率は約4・8%と安定した伸びを実現。

一方で司法、行政、立法の各機関を掌握し、憲法が禁じた大統領再選を最高裁に認めさせたほか、憲法そのものも改正した。

 

ニカラグア日本大使館によると、激化したデモで海外からの観光客が激減して主要産業の観光に打撃を与えているほか、農業労働者のデモ参加でコーヒー、トウモロコシなどの収穫、作付けがされず農業生産に影響が出ると懸念されている。

 

同じ左派政権で盟友とされる南米ベネズエラに続き、ニカラグアの混乱が長引けば、中南米全体の不安定要素となる可能性をはらんでいる。【7月27日 産経】

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【「内戦より悲惨」】

混乱の状況は、1980年代に経験した内戦より悲惨だと住民が語るほどに深刻化しています。

****【AFP記者コラム】「あの内戦より悲惨」中米ニカラグアの現状****

ニカラグアへ行かないかと打診された時、私は一瞬もためらわなかった。4月以降、そこで起こっている危機的状況を、読むだけではなく取材したかった。

もっと正確に言うと、近いようでいてそう近くはないベネズエラから行くという視点を生かし、彼らの苦しみを取材したかった。ニカラグアが陥っている状況は、1980年代に経験した「内戦より悲惨」だと住民たちは言っている。(中略)

道沿い、交差点、信号機や横断歩道の脇、人がぎゅうぎゅうに詰め込まれた4ドア軽トラックの荷台から、ニカラグアの首都への私の帰省を出迎えたのは、マスクを着け重武装した市民たちの光景だった。(中略)

■公私とも困難な状況

ニカラグアでは、記者としても個人としても困難な毎日を過ごした。暴力は、反政府デモの枠を超えて広がっていた。

死や銃撃は日常の出来事で、住宅は放火され、ある時は一家全員がその中にいた。子どもや若者が銃で撃たれ、失踪、迫害、嫌がらせもあった。

ベネズエラでは抗議活動の間、ほぼ毎日催涙ガスが使われていたが、ニカラグアで使われたのはほんの数日だった。数日して始まったのは、発砲だった。

■「解放区」

まるで内戦中のように、政府はマサヤの街を「解放し」、「奪還する」ためとして警官隊、鎮圧部隊、民兵組織による集中作戦を展開している。

それに対する抵抗の証しとして、そして地元住民を守るために、緩んだ舗道の敷石を積み上げて路上に作られた何百ものバリケードを、最後の一つまで取り壊そうとしている。

マスクをした民兵たちは、バリケード地点にいる反政府側のデモ隊と間違われないよう、毎日そろいの色のTシャツを着ている。ある日は白、ある時は緑、グレーや青の日もある。一方、反政府デモの参加者もマスクをかぶっている。

警察や、特にオルテガ大統領派の近隣住民に身元を特定されないためにだ。政府にとって、彼らは全員「テロリスト」なのだ。(後略)【8月7日 AFP】

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【政権を支えるロシア】

そして、前出【7月27日 産経】に、キューバベネズエラなど周辺国からの“戦闘の専門訓練を受けた非公式の「プロ組織」”の存在が指摘されていますが、オルテガ政権をさせるロシアの存在も大きいとの指摘も。

****ニカラグアオルテガ独裁政権への抗議デモは400人以上の犠牲者を出す事態に。もはや「内戦」化しつつある****

4月に始まった中米ニカラグアの反政権デモはすでに400人以上の犠牲者を出す事態になり、もはや「内戦」とも言える状態になっている。

 

このデモは、社会主義革命を掲げたサンディニスタ民族解放戦線FSLN)のリーダーである現在のニカラグア大統領、ダニエル・オルテガの政権が社会保障制度改革を行い、負担金の引き上げや年金削減に踏み切ったことに端を発する。(中略)

かつて、1979年まで続いたソモサ一族による独裁体制に終止符を打ち、政権を握ったダニエル・オルテガだが、1990年に一度失脚し、2007年に再度大統領を就任して以来、ロシアとの関係を強め、ロシアの支援をもとにソモサ一族と同様に国家の資産を私物化して独裁政権化していた。

 

このロシアの支援は、食料やトラックだけではない。2015年から方向転換して、ニカラグアに武器の供給を盛んに行うようになるのである。

それによって、ニカラグアは自国の軍事力を増強させて中米における軍事的影響力を拡大しようとするのであった。それによってロシアはニカラグアを通して米国を牽制するようにしたのである。

即ち、ニカラグアは中米におけるロシアの代理を務めているような存在になっていたのである。

ロシアをバックに君臨するオルテガ政権

ニカラグアラテンアメリカでハイチに次ぐ2番目に貧しい国とされている。ロシアからの武器の供給に対し、その支払いは充分には出来ない。

そこでニカラグアの土地490万ヘクタールを提供し、ロシアのラテンアメリカにおける諜報活動を支援する基地としての役目を提供もした。

その結果、欧米の全地球測位システムGPS)に相当する衛星測位システム(Glonass)の基地がニカラグアに設置されることになった。(参照:「La Prensa」)

基地以外にもロシアとの関係を表すのは、先述したような軍備に関するものだ。オルテガがロシアとの絆が如何に強いかということを示すものとして、戦車や戦闘機、ミサイル艇などをロシアから導入しているが、外国の軍人およそ400人も入国させている。その大半はロシア軍人だと見られている。それは軍事的そして人道的支援が目的だとしている。(参照:「Culturaeko」)

これら一連のロシアからの支援がある限り、オルテガが政権を容易に手放して他国に亡命する可能性は考えられないということなのである。

現在の紛争に持ち堪えて、そのままに首都マナグアに居座るつもりなのである。また、ロシアにとってもニカラグアを容易に手放すことは当然望んでいない。

反政権デモはもはや「内戦」化しつつある

そうした状況も踏まえると、この反政府デモは、米国のキューバ移民2世マルコ・ルビオ上院議員が指摘しているように、内戦に発展する危険性がある。(参照:「Infobae」)

 

当面、米国と米州機構は前倒し選挙を実施するように要請しているが、オルテガはそれを受け入れる用意はない。また、制裁の実施も検討中だという。

以前のように、米国が軍事的に介入して政権の転覆を計るといったプランは最近の米国はもっていない。ベネズエラに軍事介入しないことを見ただけでもそれが理解される。

 

内戦に近づいている背景には、政治面だけでなく経済面でも深刻な事態にあることが挙げられる。

経済的にも袋小路にハマっているニカラグア

「経済と社会の発展の為のニカラグア基金(Funides)」は、今後の経済成長はなく、GDPが5.6%まで後退する可能性があると指摘している。(参照:「La Prensa」)

 

ニカラグアは地理的に見ると、中米の中間地域に位置しており、そこが紛争中ということで北部のホンジュラスグアテマラ、エル・サルバドルと南部のコスタリカパナマとが分断されたような状態になっている。

よって、物資の輸送も陸送からフェリーを使っての海上輸送に代わっているという。4月からの紛争で6月半ばまでに2万本のコンテナーの輸送が滞っていた>そうだ。また中米地域だけの商取引だけを見ると40%減少しているという。

さらに、長引く反政府デモの影響で、4月から20%の企業が閉鎖、中米周辺国に金額にして2110万ドル(23億2000万円)の損害をもたらしているという。(参照:「BBC」)

 

国民の逃亡も始まっている。移民者の為のキリスト教サービスLea Montesによれば、隣国のコスタリカに移民を希望する人の数が、紛争が始まる前の4月の第一週目の申請者は150人だけだったのが、7月初旬の週で5126人が申請しているとしている。

 

しかも、地方に開設されていた「移民と出国担当局」が廃止されたため、首都マナグアの同局にパスポートの発行を求める人が殺到しており、泊りがけで申請の為の順番を待っている人もいるという。【8月7日 白石和幸 ハーバー・ビジネス・オンライン】

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【中米からの難民に国境を閉ざすアメリカ】

“国民の逃亡も始まっている”とのことですが、北に隣接するエルサルバドルホンジュラスグアテマラの3カ国は、「マラス」と呼ばれるギャング集団による治安悪化が深刻で、これらの国の国民が「政府が何もしないため、逃げるしかない」状況にあります。

更に、北上して北を目指しても、アメリカ・トランプ大統領が中米からの難民・移民を受け入れを、入国管理所に「空きがない」ことを理由に亡命希望者を門前払いするやり方で、実質的に拒否しています。

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トランプ大統領が)議員たちとの会談の席で、なぜアメリカが「ノルウェーのような国」ではなくアフリカの「肥だめのような」国々や「全員がエイズに感染している」ハイチなどからの移民を受け入れなければならないのかと発言したのは有名な話。

この6月にも「アメリカは移民のキャンプにも難民収容施設にもならない」と語っている。(中略)

伝えられるところでは、トランプ政権はさらなる規制強化も検討している。

母国とアメリカ以外の国に2週間以上滞在しながらその間に亡命を申請していない者や、アメリカを目指す途中で複数の国を経由した者にはアメリカへの亡命を認めないという方針だ。また亡命申請の「法的根拠」を示せない場合も却下されるという。

かつて国土安全保障省の法務担当だったスティーブ・レゴンスキーに言わせれば、そんな条件を付けられたら実質的に誰もアメリカに亡命できなくなる。【7月31日 Newsweek「メキシコ国境で足止めされる移民の叫びを聞け」】

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大統領は議会に、「(政府機関を)閉鎖しても構わない」という強硬な姿勢で“壁”建設費の予算化を求めてもいます。

ニカラグアオルテガ政権の市民への暴力行為を非難しているアメリカですが、そんなニカラグアからの難民なら受け入れるのでしょうか?